沖縄赤十字病院
研修医
齋藤 洋太
実習期間
「人生の最期ををどこで過ごしたいか。」この問いに対して、かつて自分はどれほど真摯に向き合ってきただろうか。医療者の端くれではあるがまだ20代の自分にとって、その質問の本当の意味は、まだ理解していなかったのかもしれない。
普段私は病院で働いてるため、来院した患者さんを診察室で診るスタイル、いわゆる医療者側の"ホーム"での診察が基本であると考えていました。この度訪問診療という形で病院外で患者さんを診る経験をし、まさに患者側の"ホーム"での診療を目の当たりにしました。
そこには病人としてではなく、1人の人間としての普段の生活が広がっていました。
これは一見当たり前のようですが、診察室での診療で、食事や入浴、寝る場所など、ここまで本人の周りの環境に思いを馳せていただろうか。そのような疑問が浮かび上がりました。一端に研修医として働いてきたつもりでしたが、病気がみえる事と生活がみえる事の違いを痛感しました。
診察室と家の具体的な違いとして、最も大きいのは患者さんの表情でした。病院でみる患者さんに比べて、明らかに良い表情をしているのです。患者さんにとってはおそらく無機質な診察室に比べ、馴染む場所の中に見慣れたオブジェクトがあり、そして愛する家族とともに過ごす環境の中での診療は、本人にとっての幸福度を何段階も高くしているようでした。特に石田院長の「はいさーい!」の声で皆が笑顔になっていく様子は、まるで魔法を見ているようでした。
病院で行う投薬や必要な処置については、そのほとんどが自宅で行えるという点からも、このような医療の在り方があるということを実感しました。
また訪問診療の中で、ポリファーマシーについて浮き彫りになる部分がありました。医療の高度化・専門科の進んだ現在、我が国でも診療科の細分化が進んでおり、特定の病気を診る水準は上がっているのだと考えられます。しかし反対に、どこを受診すればいいのか分からなくなったり、自分の専門ではないなどとして各科をたらい回しにされる、などという事象も散見されます。高齢者は高血圧や腰痛症など複数の慢性疾患を抱えていることが多く、別々の病院で複数の診療科を同時に受診していることがあります。その結果、各科が必要だと考える投薬がそれぞれ行われ、すべて併せるとその内服薬は20種類以上にも登ることがあります。本人は症状のことよりも、薬をたくさん飲まなきゃいけないことにうんざりしているケースも珍しくありません。
石田院長は家庭医療のプロであり、内服薬を全て把握した上で吟味し、不要と判断する薬はばっさりと中止し、本人にとって本当に必要な薬のみを継続するようにしています。この取り組みからはポリファーマシーの改善に寄与しているどころか、患者さんにとって何が幸せかという観点を常に持っていることを実感し、全人的に診療を行っている石田院長の姿に感銘を受けました。
最後に、この度はスタッフの方々皆様にお世話になりました、この場を借りて御礼申し上げます。自分の暮らしている那覇市内のクリニックに素敵なスタッフが働いていることを誇りに思いながら、今回の経験を今後の診療に活かしていきたいと考えています。
この度は本当にありがとうございました。