研修医実習レポート


 

沖縄赤十字病院
研修医

安仁屋 僚

実習期間

2019年1月7日〜2019年1月31日

私は今回、1カ月の間地域医療実習としてはいさいクリニックで在宅医療について学ばせていただきました。那覇の在宅医療を一手に担うはいさいクリニックは優秀なスタッフ8人ととても優しくユーモアにあふれた石田吉樹先生1人で経営しており、24時間365日、呼び出しがあればいつでも患者さんのもとへ駆けつけ話を聞き、なんでも治療し、患者さんだけでなくご家族の不安をも取り除くスーパーマンの様なお仕事をされていました。普段私たち総合病院で働く医師はこの逆で、患者さんが定期的または緊急で外来受診し検査や治療を行うという診療形態をとります。これが当たり前であり、様々な疾患に対応できる科や検査・治療機器が揃っている総合病院での治療がベストであると信じていました。しかし、この1カ月間で実際に私が先生の元で学び、目にした実態はこの考えを改めるきっかけとなりました。私が思っていた以上に病院が嫌いで受診したくない方、受診したくても病状が悪かったり運動機能・認知機能の面で受診できない方が沢山いました。在宅医療と言えばもう病院では治療できない、治療しても治る見込みはない所謂‘終末期‘の患者さんが殆どだと思っていた私からすると意外な事実でした。病院では「骨折等で入院・手術した後からなぜか食欲がなく、活気もなくなり認知機能もどんどん落ち、誤嚥して肺炎になる」、「最近認知症なのか記憶力が低下し会話もうまくできない。一人では歩けない状態で、嚥下機能も落ち食事もとれず、昨日から熱が出てきた」といった症例にしばしば出会います。その都度治療を行ったり、点滴で栄養を流したりしますが根本的な問題が解決していないため時には悪化の一途をたどり、遂には人工呼吸器につながれ寝たきりで最期を迎えます。私達は医師として目の前の患者さんを救うために精一杯向き合い、日々勉強し治療に臨んでいますがこの様な経過を辿ってしまうと、患者さんやご家族のためになったのだろうか、本当にこれで良かったのかと悩み、適切な医療とはなにかについて何度も考えてきました。その答えの1つに今回の実習の中で出会うことができたと思います。先生の元で学んだ1カ月の間に寝たきりで食事も摂れず、言いたいことも伝えられないような患者さん達が、自分の力で立ち上がり食事をし、家族や先生に「ありがとう」と笑顔で語りかける姿を何度見たことでしょう。これは一月前の私には到底信じられないことでした。
何が病院と違ったのでしょうか。病院を受診し入院するという行為には患者さんとご家族に大きな時間的・肉体的・精神的ストレスを伴います。決して簡単なことではありませんがそれを医療者側が負担し、患者さんの立場に立って必要な治療と不必要な治療を判別し、幅広い知識と診療技術をフルに活用することで適切な医療を患者さんに提供するということがここでは実現できていました。何より、自分の大切な家で大好きな家族と過ごし、好きな食事をとって一日一日を生きていくことが一番の治療なのだと感じました。これは病院では絶対に実現できないことです。上記以外にがん患者さんや変性疾患など他にもたくさんの症例と出会っており、とても一枚の用紙には書ききれませんが、この1カ月間にはいさいクリニックで学んだ医療理念は今後何十年も続くであろう私の医師人生の柱となると確信しています。私の家族もいつか石田先生に診ていただきたいと思っています。
終わりに、私を温かく迎え入れて下さった石田先生とはいさいクリニックの皆さん、私を一人の医師として迎え入れてくれた訪問先の患者さんとそのご家族の方々へ感謝を申し上げます。ありがとうございました。