研修医実習レポート


 

沖縄赤十字病院
研修医

長嶺 圭祐

実習期間

2021年2月15日〜2021年2月26日

研修医は2年間のうちの1ヶ月を地域医療に従事することが厚生労働省の臨床研修制度で定められている。例年は県内の離島診療所や県外の僻地病院など様々な選択肢があった。しかし今年は新型コロナウイルスの影響で研修医受け入れ可能な病院はほとんどなくなった。そんな時、訪問診療を専門としている那覇市内の病院「はいさいクリニック」が快く受け入れてくださった。
私は救急医療・集中治療に関心があり、将来はその道に進んでいこうと考えていたので、ゆったりとした印象のある訪問診療で退屈してしまわないかと要らぬ心配をしていた。しかし実際に経験してみると日々新しい発見の連続で、今までの自分の診察を考えさせられる場面がいくつもあった。
訪問診療は1人のドクターと2人の看護師、計3人が医療物品を詰め込んだ車に乗り、1日約10件〜15件の自宅を訪問し、診療を行う。私も同行し、患者の自宅を訪問させていただいた。患者の生活環境は様々である。経済的に貧しい家もあれば裕福な家もあり、家族が協力的な家もあれば独居で面倒をみる人がいない家もある。病院での問診では、診断をつけるために症状や既往歴・内服薬は一生懸命聴取するが、それと比較して生活歴についての問診は浅い。今までの診療では「タバコ吸ってますか。」とか「酒どれくらい飲みますか。」とか「何人暮らしですか。」など通り一遍のことしか聞いて来なかった。患者の背景を知ったような気になっていたが、その程度の質問で把握できるほど人の暮らしは単純ではないことを思い知らされた。患者の自宅に訪問するとどういう生活をしていたのか、どんな趣味を嗜んでいるかが嫌でもわかってしまう。病院で得られる情報よりも圧倒的に多い。「百聞は一見に如かず。」訪問診療の強みであると感じた。患者の背景を知ることでその人にとって必要な医療を提供できる。病気だけを見ているとなかなかできない事だと感じた。
訪問診療といえば話を聞くのがメインで診察は二の次、検査は厳しいのではないかと考えていたが、これも私の勘違いであった。診察をして必要であれば点滴で抗生剤を投与したり、心エコー・心電図・血液検査も施行する。腹水穿刺、胃瘻交換だってしてしまう。抗生剤についても病院の救急室と同じくらいの種類から選択できる。提供する医療に全く妥協していない。もちろんレントゲンやCT撮影は出来ないが、自宅で実現可能なことは大体なんでも行っており、患者や家族の納得する医療を提供していた。これは医者だけではなく、看護師、事務スタッフの連携があってできることだ。医者以外の医療スタッフの重要性も再認識した。
今回の研修で最も勉強になったのは患者とのコミュニケーションだ。院長は患者の家族構成や趣味はもちろんのこと、犬の名前やその犬の性格まで記憶している。それが何なんだと思うかもしれないが、そうすることで患者はより心を開く。「はいさーい」と院長が訪問すると家族は笑顔になり、寝たきりの患者も院長の呼びかけに口元が緩む。流石に自宅に転がっていた犬のフンを院長が掃除し始めた時は笑ってしまったが。救急など忙しい場面では実践していくことは難しいだろうが、もう少し病気よりも患者を見る姿勢を大切にしていこうと決心した。
2週間と短い研修期間でしたが、今後の診療に活かせる気づきや、経験がたくさんありました。院長の石田先生はじめスタッフの皆さん、ありがとうございました。